ベロイト大学

私がベロイトへ運転していたときのことだ。セミトレーラーが突然私の車線に割り込んできた。運良く、私は素早く反応してブレーキをかけ、隣の車線に移った。だが、もし移った車線に他の車があったとしたら、とんでもない事故にあってもおかしくない。もうちょっとで死ぬところだった。これは最初の凶兆だった。

その週末ベロイトは生徒奨学金希望者で大変混んでいた。ベロイトには三種類の松竹梅にあたる奨学金があり、その週末に決められることになっていた。

父と分かれ、受付をしてからすぐホストに紹介された。私たちの最初の会話は以下の通りだった。冗談ではない。
ホスト「よう、こんにちは。ジョンと呼んでくれ。マリワナはどうだい?」
私「吸いません。」
「じゃ、タバコは?」
「吸いません。」
「そっか。他のドラッグは?言ってくれれば、俺が探してくるからさ。」
「いや、ドラッグはやらないんです。」
「そっかい?楽しいもんなんだけどな。やらないなんてもったいないよ。試してみろよ。俺、おごるからさ」
「聞いてくれて嬉しいけど、やっぱり結構です。」
「そっか。俺が悪かった。もちろん、やらなくても構わない。俺はただフレンドリーなことをしたかった。分かるだろ?」
「ええ、もちろん。気持ちはありがたいです。」
「世界にはいろいろな人がいるからさ。」
五分間の沈黙。私たちは寮へ向かった。

これはある意味、アメリカの優待精神が極端に現れた例である。違法の世界へ誘うにしても、心から暖かさを込めて、お客さんを接待しようとする。親切なことは親切なのだが、薦めていることが良いか悪いかは別問題だ。

ちなみに、私はドラッグを使ったことがない。タバコも吸ったことがない。煙の匂いは苦手だ。子供の頃、火遊びのは大好きだったが、どうもタバコやマリワナの煙は気に入らない。

彼についてととんでもなく荒廃した寮へ入った。匂いだけはマシだったが。そこで、彼が友達に紹介してくれた。皆は寮の共用ラウンジでティムバートンの『エッドウォード』という映画を見ていた。ご覧になったことがある方にはこの後のシーンの不可思議さが分かると思う。

優しい人ばかりだった。ただ、ドラッグしか趣味ないのような奴らだったので、ボウッとしていてあまり会話の相手にはならなかった。

ドラッグのユーザと暇つぶしをすると、信じられないような会話を聞くチャンスがよくある。今回も例外ではなかった。

ある女性「今夜のビールはもう揃っている?パーティーでいっぱい飲みたいわ」

ジョン「いや、金がない。ラーメン生活だ」

(アメリカのカップラーメンはカップ入りでなくプラ袋包装のものだ。そのすごくまずいラーメンは15円しかしないから、貧乏生活をしている大学生に大人気だ。私の知り合いの一人は、四ヶ月ラーメンばかりを食って倹約に頑張ったが、二ヶ月目あたりから気が狂ったように変になった。)

女性「ダメねえ。あたしお金はあるけど、誰か偽造免許持ってない?

(アメリカの法律では二十一歳から飲酒できる。違法販売の罰金が高いから、ほとんどの店は歳を確認する。そのため、二十一歳未満の学生の中ではこの手段を使うことが多い。)

ある男「ないんだ。持ってたけど警察にとられちゃってさ。」

もう一人の女性「わざわざ買いに行くことないわよ。あたし、母さんに頼むから。」

彼女は携帯電話を取り出した。

「もしもし?ママ?悪いんだけど、今夜のパーティーのビールを買ってくれない?六ケースで足りると思うわ。いい?よろしく。」

本当にそんな当たり前のような一方的会話だった。それに、信じられなかったのは、実際に彼女のお母さんがビールを買ってくれて、二時間後わざわざその寮まで届けてくれたことだった。ちなみに、一般的にケースは二十四缶だ。

それからジョンと彼の友達と一緒に食堂で夕食を取った。他のことはともかくとして、飯は案外美味しかった。

ジョンは哲学やコンピューターサイエンスのことはぜんぜん知らなかったので、できるだけ知り合いを絞って、詳しい人を紹介しようとしてくれた。だが、あまり適切な人は思いつかなかった。結果はどうであれ、本当に優しかった。

その夜は演劇を見る機会があったので、ジョンと分かれ、父と合流して一緒に見に行った。すっかり内容は忘れているけど、とても良かったとだけは覚えている。私は高校で演劇を二、三回やったことがあったので、大学でも演劇やろうかなと思っていた。まあ、ベロイトの良い所の一つと考えればいい。そんなにたくさん良い所があるというわけでもないから。

朝一時頃ジョンの部屋に戻ったら、彼が着替えていたところだった。

「おい、マルディ・グラのパーティーに行くかい?」と気軽に誘ってくれた。
「いや、悪いけど、九時から奨学金の面接があるので。」
「あ、そうか。じゃ、行かない方がいいだろうね。俺たちのパーティーはすごく楽しいのに、残念だな。だったら、こう言うのは悲しいけど、もう君とは顔を合わせないだろうな。俺は多分ベロベロになって彼女の部屋に泊まるから。何時に起きるつもり?」
「八時かな。」
「じゃ、俺の目覚ましをかけておこう。このボタンを押すと音が止まる。目覚まし一つでいいかな?ぐっすり寝るタイプじゃないよね。」
「大丈夫だと思います。」
「よかった。いくつあっても足りない奴もいるからさ。じゃ、頑張れよ。俺も一生懸命頑張ってホストをやったんだよ。実を言うと初めてでね。多分、君にも分かったんじゃないかな。俺は普通ホストなんかしないタイプだけど、人数不足って、入学事務局に頼まれてさ。俺はホストには落第だろうな。」
「いや、大丈夫でしたよ。とても良い経験でした。ベロイトをありのままに見ることができて、感謝しています。」
「なら、いいけど。とにかく、さよなら。楽しかったよ、坊や。面接頑張れよ。シャワーは左側の一番近いドアだよ。絶対ベロイトに来いよな。この場所はすごいだからさ。」
「鍵はどうすればいいですか。」
「放っといていいよ。ここは正直者ばかりだから。じゃ、行くぜ。お休み!」

ある意味、私が訪問した大学の中では、ベロイトは一番すごいところだった。実は、ジョンとの別れは私にもちょっと寂しく感じられたのだった。彼は私と全然性格が合わなかったが、それでもとても親切にしてくれたのだから、今でもそれを評価している。

八時に起き、シャワールームに入った。しかし、それが男女共用のシャワールームとは知らなかった。シャワーに入ったときは誰もいなかったのだが、出た時にはちょっと恥ずかしい思いをした。

それから朝食を食べ、面接に行った。その内容は全然覚えていない。そして、キャンパスを見学した。殆どはすごく古い建物で、設備も優れていなかった。コンピューターサイエンスの専用ラボには八年物のパソコンしかなかった。その後父とうちへ帰った。

数週間後、面接に合格したことがわかった。無論、私はあの訪問以来ベロイトに興味はなくなっていた。通知は記念にフォルダーに入れて、「他の大学に行くことにしました。」というような返事を書いた。まだどこと決めてはいなかったが、ベロイトに行きたくないことだけは確かだったから、すぐ断りの手紙を出した。そうしないと、私に提供された奨学金が次のもっとベロイトに相応しい学生に回っていかないから。